
産業医は役立たず?機能していない産業医の特徴と選任のポイント
事業場に産業医がいるものの、うまく活用できておらずメリットを感じられないというケースがあります。ただし、産業医の役割を正しく理解していないことが、うまく機能していない原因の一つなのかもしれません。
本記事では、産業医の選任義務のある企業の経営者や人事担当者に向けて、産業医の具体的な役割やうまく活用するためのポイントなどを解説します。
そもそも産業医の役割とは

産業医は、事業場の中でどのような役割を担っているのでしょうか。産業医の役割を理解していない場合、事業場内でうまく機能しなくなる恐れがあります。産業医の役割を正しく把握していれば、従業員の健康管理にうまく活用できるようになります。まずは、産業医の役割や業務について理解を深めておきましょう。
産業医は診断や治療は行わない
産業医は、一般的な勤務医と異なり、診断や治療などの医療行為は原則として行いません。一般の勤務医はケガや病気の患者を対象に治療を行いますが、産業医は事業主や従業員を対象に労働者の健康の保持や職場環境、作業環境の維持改善のために助言や教育するなどの役割を担っています。
産業医は、労働者の健康管理に必要とされる勧告を事業主にする権限があり、事業主と従業員の一方に偏ることなく、あくまでも中立な立場でいなければなりません。産業医と一般の勤務医の違いを以下の表にまとめました。産業医の役割や一般の勤務医との相違点を理解する際に役立ててください。

産業医の業務
産業医が行うべき業務は、労働安全衛生法だけでなく労働安全衛生規則と呼ばれる法律に定められており、以下の9つに分類されています。
健康診断の実施、診断結果に基づく措置
長時間労働者への面接指導、結果に基づく措置
ストレスチェックの実施、高ストレス者への面接指導、結果に基づく措置
労働者の健康保持のための作業環境の維持管理
作業管理の実施
6.1~5以外の労働者の健康管理
事業場における健康教育や健康相談、労働者の健康保持・増進のために必要な措置
事業場における衛生教育の実施
労働者の健康障害の原因究明、再発を防止するための措置
労働安全衛生規則に書かれている内容をわかりやすく説明すると、産業医は健康診断の結果に基づいて健康増進のための指導やアドバイスをしたり、長時間労働やストレス過多の労働者に指導やアドバイスなどを行います。また作業環境が労働者の健康を阻害しないようにするための措置や助言をするなど、労働者が健康に働けるようにする役割を担っています。
他にも、月1回の職場巡視や衛生委員会の参加なども業務に含まれます。
機能していない産業医の特徴
事業場に産業医を選任したものの、全く機能していないと感じる事業主は少なくありません。とはいえ、何が原因なのか分からないというケースもあるでしょう。一つの可能性として、産業医が本来の役割を果たせていないことが考えられます。以下では、機能していない産業医に共通する特徴を解説します。自社の状況と比較してみましょう。
職場巡視を行っていない
職場巡視を行っていない事業場では、産業医が機能していない場合があります。職場巡視は、産業医が労働者の職場の安全や衛生状況を直接確認するために必要な業務です。職場巡視で職場環境に労働者の安全や衛生を損なう可能性がある問題を見つけ、産業医が適切な指導や助言を行うことで、職場環境の改善を目指します。
原則として、職場巡視は月に1回~数回の頻度で行わなければなりません。しかし、産業医が職場巡視を怠ることで、職場の安全・衛生管理が適切に行われなくなる可能性が高まります。結果として、産業医を選任しても、労働者の健康の保持につながらないという事態を引き起こしてしまいます。
社員と会社の間に入るパイプ役になっていない
産業医は、社員と会社のどちらにもくみせず、中立な立場でいなければなりません。しかし、産業医が機能していない場合、社員と会社のパイプ役になっていないケースがほとんどです。なかには、産業医が会社の意向を優先し、意図的に社員が不利になる判断や決定がなされる事例もあります。
産業医が会社に忖度したり、言いなりになったりしている場合は、社員の健康を損なう問題が発生しても、産業医の介入は期待できないでしょう。新しい産業医を選任することも可能ですが、会社が産業医の必要性を理解し、中立な立場を確保できなければ現状を打破するのは難しいかもしれません。
名義貸しのみで産業医としての職務の実態がない
企業が産業医の選任義務を果たすためだけに、産業医の名義を借りている可能性も考えられます。産業医としての役割を果たさず、企業に名義のみを貸す人も珍しくありません。なかには、職場巡視はもちろん、職場の訪問すら行っていない産業医もいるといわれています。
名義貸しの産業医が職場巡視を怠った場合、労働安全衛生法に違反するため、50万円以下の罰金が科せられます。名義貸しの産業医を選任した企業は、厚生労働省のホームページで公開されている「労働基準関係法令違反に係る公表事案」に会社名が掲載される可能性があるため、注意が必要です。
名ばかり産業医が生まれる理由

名義貸しの産業医を選任すれば、労働安全衛生法に違反することになります。違法だとわかっていても、名義貸しの産業医が存在するのはなぜでしょうか。実は、名義貸しの産業医が生まれてしまうのには理由があります。その理由とは、産業医の人材不足と、産業医の役割を理解していない企業が存在するためです。詳しくは、以下で解説します。
産業医の人材不足
産業医の選任義務がある事業場の数に対し、産業医の人数が不足していることが、名義貸しの産業医が生まれる理由の一つです。
厚生労働省の「現行の産業医制度の概要等」によると、産業医の選任義務がある事業場の数は約16万事業所で、産業医選任率の平均は87%でした(出典:厚生労働省|現行の産業医制度の概要等)。
また、産業医の養成研修・講習を修了したとされる医師の数は約9万人に上りますが、実際に産業医として活動している人数は推計で約3万人といわれています。
産業医の選任義務がある企業は、産業医を確保しなければならず、企業間の取り合いや産業医がかけもちにならざるを得ない現状が読み取れます。
企業が産業医の役割を理解していない
産業医が名ばかりになってしまう理由は、企業が産業医の役割を正しく理解していないことも原因の一つです。上述したとおり、産業医は一般の勤務医とは異なる役割や職務を担っています。企業が産業医の役割やメリットを把握していなければ、産業医を選任しても義務を果たすための存在になりかねません。
また、産業医が常勤していなくても大きな問題が起きていない場合、企業と産業医の両者が互いに干渉しない状態を受け入れてしまうケースもあり、名ばかりの産業医が生まれてしまいます。
産業医はうまく活用できればメリットも多い

産業医をうまく活用すれば、企業はさまざまなメリットを得られます。しかし、産業医が機能していない企業では、産業医の役割はもちろん、活用するメリットが理解されていません。以下では、産業医をうまく活用した場合に企業が得られるメリットについて解説します。どのようなメリットがあるのか把握しておきましょう。
従業員の健康意識が高まる
産業医をうまく活用できれば、従業員の健康意識をさらに向上させることも可能です。産業医の職務には、従業員へのメンタルヘルスに関する教育や健康保持のための声かけなどがあります。
産業医が事業場内で声かけを行う、メンタルヘルスに関する教育の機会を設けるなど、事業場内で健康のことを考える機会を増やすことで、従業員の健康意識を高めることができます。
従業員が健康や自分の体調に意識が向くようになれば、規則正しい生活を心がける、体調の変化に気づきやすくなる、体調に合わせた仕事配分にするなどの行動にも反映されるでしょう。
従業員の不調の防止につながる
産業医をうまく活用できれば、従業員の不調を未然に防ぐことができます。産業医の選任義務がある事業場では、産業医によるストレスチェック結果に基づいた措置や、月に1回の職場巡視などを実施しなければなりません。
たとえば、ストレスチェックでは、従業員個人のストレス度を把握できる上に、高ストレス者には産業医との面談の機会を設けられます。このように、産業医業務によって、従業員の不調を一早く察知でき、体調不良による欠勤や休職、離職などのリスクを減らせるようになります。
生産性向上につながる
産業医を活用するメリットは、従業員の健康の保持・増進だけではありません。従業員が体調不良などの健康面の不安がなくなれば、仕事も円滑に進められるようになるため、生産性向上も期待できます。従業員の健康と生産性は、科学的に因果関係があると指摘する研究結果も報告されています。
従業員の健康のために行っている産業医業務は、生産性向上につながり、結果的に売上アップや顧客満足度の向上なども期待できるでしょう。このように、産業医をうまく活用できれば、企業はさまざまなメリットを得ることができます。
産業医を選任するときのポイント

産業医をうまく活用し、上述したようなメリットを得るためには、産業医選びが重要です。優秀な産業医を選任できれば、複数のメリットを得ることができるでしょう。ただし、産業医を選任する際は、いくつか考慮しなければならないポイントがあります。以下で解説する選任時のポイントを参考にして、自社に合った産業医を選びましょう。
産業医を選任する目的を明確にする
産業医として基準を満たしているかどうかも大切ですが、産業医をうまく活用してメリットを得るためには、産業医を選任する目的を明確にしておくことが重要です。目的を明確にするためには、産業医を選任してどのような問題を解決したいのかを検討しておきましょう。
たとえば、従業員の体調不良による休職や離職率を減らしたい、従業員の健康不安を緩和して業務効率化を図りたい、長時間労働者を減らしたいなどが挙げられます。産業医を選任する目的を明確にすることで産業医に求める条件も定まり、適した人材を探しやすくなります。
候補者の実績や経験を確認する
産業医を選任する際は、産業医としての実績や経験も考慮しましょう。実績や経験を確認することで、産業医選びで失敗するのを未然に防ぐことができます。
たとえば、高ストレス者を減らす目的があるなら、メンタルヘルスに特化した人材を探しましょう。また、外資系などの外国人の従業員が多い企業は、外国語にも対応できるかどうかも産業医を選定する際の条件に入れておくとよいでしょう。
複数の候補者を比較し、自社のニーズに合う産業医を選ぶ
産業医を選任する目的を明確化し、候補となる人材の実績や経験を比較検討した上で、自社の問題や課題を解決できる産業医を選ぶようにしましょう。産業医を選ぶ際は、最初から1名に絞らず、複数の候補者を立ててから自社のニーズに合う人材を選定する必要があります。
複数の候補者がいれば、第一希望の人材との契約面での交渉がうまくいかない場合でも、別の候補者にアプローチできるため、一から人材を探す手間を省けます。産業医の人数が少ない地域なら、産業医紹介サービスなどを利用するのも一つの方法です。
産業医と「HELPO」を活用した健康管理
産業医の選任によって、従業員の健康の保持・増進につなげることができます。ただし、従業員の健康管理という観点で考えた場合、産業医に加えて、従業員が気軽に相談できる窓口を作ることも重要です。
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産業医と「HELPO」を活用することで、従業員の健康管理を広範囲でサポートできるようになるでしょう。
まとめ

企業が産業医の役割を理解していないと、産業医を選任しても名ばかりの存在になる可能性があります。産業医をうまく活用できれば、従業員の健康の保持・増進だけでなく、企業が抱える問題の解決はもちろん、メリットも得られるでしょう。
産業医の選任時は目的を明確にし、複数の候補者を比較検討した上で、自社に合う産業医を選ぶことが重要です。さらに、産業医と「HELPO」を活用すれば、両者のメリットを活かすことができます。従業員の健康管理を強化するなら、「HELPO」を検討してみてはいかがでしょうか。

